「勝手に○○がやった」は通用しない場合があります。
民法110条では本人に落ち度があり相手方が善意無過失の場合は、取引が有効になるとされています。どういう意味でしょうか?
具体的な場面で解説していきましょう。
たとえば、政治団体が、その構成員であるAさんに、「地域をきれいにする部長」という肩書きを付与します。そしてある日、そのAさんが、地域をきれいにするんだったら、車が必要だと考え、自動車販売店で車を購入します。
代金は、当然、その政治団体に請求されます。このとき、政治団体は、自動車販売店の請求に対して、知らなかったとか、Aさんにそんな権限は付与していない、と言って、請求を拒むことが出来るでしょうか?
民法110条の規程に従えば、拒むことは出来ず、きっちり払わないといけないということなのです。
これを表見代理と言います。代理を「表す」という意味なのですが、民法110条においてなぜ、代理を表すことが問題になるのでしょうか?
民法110条は、(上記の例でいえば)自動車販売店の債権を保護しているのです。
政治団体は、Aさんに、地域をきれいにする部長という肩書きを与えました。しかし、Aさんが何を具体的にどうやって地域をきれいにすべきか、その予算、方法、期間については一切話していませんでした。
一方、まじめなAさんは、自分の肩書きである「地域をきれいにする部長」を真摯に拝命し、一生懸命に考えて、まずは車が必要だと思い、車を買ったのです。自動車販売店にとっては、そんなAさんは、政治団体の立派な活動をなさっている人が来たというふうにしか見えません。勝手にAさんがやったこと(無権代理行為)だなんて、疑うわけがありませんし、お客様にそんな失礼な質問が出来るわけもないのです。
しかし政治団体からすれば、車買うなんて誰がいいっていった問題になるかもしれません。お金がないのだったらなおさらそうなると思います。掃除で車が必要なわけがない、100円ショップのほうきとちりとりでヤレというふうに「常識」を持ち出すかも知れません。残念ながらその「常識」はAさんの常識と今回、乖離があったのです。
こんな裏側の事情はさておき、民法の110条の規定があるために、政治団体はAさんの行為を取り消すことが出来ません。ですから、Aさんが勝手に買った車の代金を、払わないといけないのです。
このような不幸な事態が生じないようにするために、どういった工夫が必要でしょうか?
コミュニケーションだと思います。上記の例でいえば、地域をきれいにする活動に必要なものがほうきとちりとりだったし、それが常識だった一方、Aさんは、車が必要と考えました。Aさんはどのような予算、期間、具体的内容で、その活動をすればよいのか、そこまでしっかり、団体はコミットすればよかったのです。納得いくコミットメントはコミュニケーションをして、(お互いの常識について)すりあわせを事前にすること以外には手段はありません。
人は名称や肩書きをもらうと、権限を持ち得たというふうに簡単に錯覚してしまう物のようです。だから、こうした規程が民法に定まっているわけです。
政治資金規正法では、お金をもらったり払ったりしたら、ただちに(または7日以内に)代表や会計責任者に証票を提出するように定められています。
それ以前の話として、民法では、党が把握していない支出でも、もしそれがなされてしまえば、その債務からは逃れられないという問題がこうしてあるということに充分留意するベきでしょう。
今、党にはあらゆる豊富な肩書きが用意され、実際に人がヒモ付いています。表見代理のようなトラブルを防ぐために、常日頃から、その肩書きでどのような職責役割が期待されていて、どうした支出がなされるべきなのか(予算組)等、十分な党内意思疎通が求められているところだと思います。