無意識にサボってしまう「社会的手抜き」
講談社「現代ビジネス」の記事「AIが作成した文書」を法廷に提出してしまった弁護士の末路……ChatGPT時代に懸念される「社会的手抜き」とは(小林 啓倫・文 2023.11.9配信 以下、「同記事」)では、グループで作業するときに起こりがちな心理現象「社会的手抜き」(Social Loafing)について紹介している。社会的手抜きとは、人が集団になると他のメンバーに頼って自分の力を発揮しなくなることである。この現象は、自覚している場合もあれば、無意識に行ってしまう場合もある。記事では、米国の心理学者ビブ・ラタネが行ったチアリーダーの実験を例に挙げて説明している。この実験では、チアリーダーたちが目隠しとイヤホンをつけて大声を出したとき、パートナーが一緒に声を出していると思わせた場合の方が声が小さくなったことが分かった。これは、社会的手抜きの効果を示すものである。
ロボットがパートナーでも「手抜き」が生まれる
ベルリン工科大学のディーリンド・ヘレネ・ツィメックらが行った実験では、技術者たちに電子回路基板の品質検査をさせたが、一部の被験者にはロボットと共同作業するように伝えた。その結果、ロボットと作業した被験者たちは、1人で作業した被験者よりも欠陥を発見できた数が少なくなった。これは、社会的手抜き効果と呼ばれる現象で、人間は仲間に頼ってしまう傾向があることを示している。また、ロボットと作業した被験者たちは、自分のパフォーマンスに満足していたが、それはロボットを同僚だと考えていたからだと考えられる。この実験は、人間に近いテクノロジーが人の性格に与える影響を考えさせるものである。
つまり同記事のこの段落からは、どんなに優秀な機械や同僚がいても、結局自分の作業の一部(ないし全部)をそうした外部に依存できると分かるや否や、社会的手抜きが生じるというのが人間の本性だと言うことだ。チェックすらしなくなるのだろうか?
ChatGPTを導入した企業では手抜きが蔓延する?
生成AIの導入が事務作業の効率化につながる一方で、社会的手抜きのリスクも高まる。具体的には、以下の三つのポイントを挙げている。
- 生成AIは存在しない事実や間違った情報を生成することがあり、それをチェックしないと問題が起きる。例えば、米国の弁護士がChatGPTに法廷文書を作成させたところ、存在しない法例が含まれていた。
- 生成AIは人間の同僚や相棒として見なされることがあり、人間がそれに過度に信頼すると手抜きになる。例えば、回路基板のチェックをロボットに任せた技術者が自分の仕事を怠った。
- 生成AIはブームになっており、多くの企業が導入しようとしている。しかし、それが優秀であればあるほど、社会的手抜きが蔓延する恐れがある。生成AIを導入した企業は定期的なチェックを行うべきである。
同記事では、上記の弁護士は、最初のうちは、AIが吐き出す生成文を逐一チェックしていた。いくつかの判例を確認したところ、まったく間違いが見つけられなかった。その後、彼は、チェックするのをやめてしまったという。チェックのプロセスを構造化してしっかりとプロセスに取り入れないと、とんでもないバグが生じることになる。
会計も注意したい
というわけで、ついつい人任せ、そして、任された人は、先延ばしにしがちな会計業務については、次のようなポイントに注意して確実にタスクをこなしていきたい。
仕事を効率的にこなすコツが、Google SGE(Search Generative Experience)から得られた。
- 小さい目標と大きい目標を設定
- ToDoリストを作成し、優先順位をつける
- 時間を区切りながら、一つずつタスクをこなす
- 負担が大きいタスクは先に終わらせる
- 適度に手を抜き、メリハリをつける
- 似た作業はテンプレート化する
- システムやツールを積極的に活用する
こんな人がAIで社会的手抜きを発症する
そもそも、最先端のAIツールを導入する前提として、自分がやっている仕事の全体像や、全体を構成する細密なプロセスを熟知している必要があるのはいうまでもない。自分の仕事のどの部分まで、自動化できるのか。何をやらせるのか。業務プロセスの詳細を知り抜いた上で、導入するAIの機能を選ばなければならない。
- 計画性がある
- 頭の回転が速い
- 広い視野を持っている
- 優先順位を把握している
- 期日は必ず守る
- 頼れる部分は人に頼る
一般的に仕事をそつなくこなせる人の特徴はGoogle SGEによれば上記のようなものだが、こうした人たちがAIを取り入れたからと言って、手抜きをしないかというとそうではない。むしろ、こうした優秀な人ほど、AIで効率化する誘因を持ちやすい。それが落とし穴になると思う。
一般的には、AIを取り入れようとする人こそが、AIを取り入れることが出来る。なぜなら、AIのことを熟知しているし、また自分の業務プロセスも子細に理解している。そんな彼らが知らずに落ち込む社会的手抜きの泥沼から出られなくなる前に、補助者が寄り添い支援をする外形的環境を作る必要があるだろう。